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Obey Your MATHEMATICS.

機械学習関連の純粋数学や実験など

「量子コンピュータが人工知能を加速する」とそれに関連するメモ.

こんにちは。珍しく今回は数式は出てきません。


この記事は自分用のクリスマスプレゼントとして買った、

量子コンピュータが人工知能を加速する

量子コンピュータが人工知能を加速する


量子コンピュータ人工知能を加速する」についてです。



かの有名な量子アニーリング(Quantum Annealing)の作動原理を考案した西森先生とその研究室で学び、量子アニーリング機械学習分野への応用の研究をされている大関先生の二人が筆を執った、ある意味(数式を使わないと言う意味)でライトノベルな一般人向けの書籍です。


量子アニーリング(Quantum Annealing)についての(数理的な側面を説明するという意味で)しっかりとした記事は今年中に書こうと思ってますので、今回は"各章に関連するメモ"と言う形のまとまりのない記事になってます。ご容赦ください。


量子コンピューター、ないしは量子アニーリングの周りの世界がどうなっているのかしっかりと概観したい方はこの本を購入するか、または次の4つの記事を併せて読むと良いかと思います。

AI開発に実用される量子コンピュータ--人工知能研究を加速 - ZDNet Japan

量子アニーリング(西森秀稔)

NASA、Googleが注目する「D-Wave」は、本当に量子コンピューターなのか?|WIRED.jp

「1億倍速いコンピュータ」に利用--量子アニーリング理論の可能性(1) - ZDNet Japan

第1章. 「1億倍速い」コンピュータ

2015年12月8日、NASAのエイムズ研究センターで歴史的な記者会見が開かれ、カナダのD-WAVE社が開発した量子コンピュータに対する性能テストの結果発表が行われた。その結果は「従来コンピュータの1億倍高速である」と言うものだった。(p.12辺り)

量子コンピュータは主に2種類あり、

「量子ゲート方式」

と呼ばれ、古くから研究されてきたものと

量子アニーリング方式」

と呼ばれる、1998年に2人の日本人Nishimori-Kadowaki(Quantum annealing in the transverse Ising model)により考案された方式がある。

今唯一商用販売されているD-wave社の量子コンピュータは後者の量子アニーリング方式を採用している。両者の詳しい違いについては、西森先生のホームページが詳しいので参照されたい。

ただ、ここで重要なのは、従来型のコンピュータが(ワープロからインターネットブラウザなど多種多様な用途に使えると言う意味で)汎用的であるのに対して、量子アニーリング方式の量子コンピュータ組合せ最適化問題*1に特化したコンピュータである。その視点で行くと、単に更に一億倍速くなったと言うわけではなく、特定の問題に対して1億倍速く解く事ができた、と言うところです。

第2章. 量子アニーリングマシンの誕生

量子アニーリング方式の量子コンピュータを製造販売する、D-waveはブリティッシュコロンビア大学大学院で物理学を学んでいたローズ氏らにより立ち上げられた。当時唯一の方式だった「量子ゲート方式」の量子コンピュータの実現には、大きな壁が立ちはだかっていた。"D-wave"と言う社名は、彼らが初めて取り組んだ量子ビットが「d波超電導体」を使用していたことにちなんでいる。(p43~44辺り)

世界で唯一量子コンピュータを販売する会社を立ち上げたのは、容易に想像がつくように大学院で物理学を学んだ人です。当初採用していた古典的な量子ゲート方式に行き詰った後に、切り替えて量子アニーリング方式を採用できたのも彼の物理学のバックグラウンドあったためであると考えるのは自然でしょう。

量子アニーリング方式の悪い所として「汎用的でない」と言うのは前述のとおりですが、逆に良いところとして「量子ゲート方式に比べて(物理的に)安定的」であると点があります。外界の影響を受けにくいそうです:

量子回路モデルと比べると,量子アニーリングは安定な基底状態(エネルギーが最も低い状態)をたどるよう設計されているため,デコヒーレンスの影響を受けにくい。(西森先生のホームページより)


一方、他のテクノロジーの巨人たちがD-waveの独壇場をじっと見ているだけなわけもなく、

例えばGoogle量子アニーリング方式のコンピュータを開発しており、

シリコンバレーNextレポート - Googleが3種類目の量子コンピュータ開発へ、量子アニーリング方式:ITpro

さらにはIBM量子コンピュータクラウドを公開しています:

IBMが量子コンピューティングを誰もが実験できるクラウドサービスとして提供 | TechCrunch Japan


このような北米活況の中、日本はどう打って出るべきか少し本書に書かれていますが、ご自身で読んで見てください。*2

第3章. 組み合わせ最適化問題の解き方と人工知能への応用

アニーリング(Annealing)とは日本語で焼きなましの事である。

量子アニーリングの「量子」は、「量子力学の性質を利用する」と言う意味。「アニーリング」とは「焼きなまし」と言う意味で、ゆっくりと冷やし、内部のひずみを取り除き均質化させるための処理のことである。それを数学的なモデルに適用しようというものである。(p70辺り)

量子力学とはなんぞや?みたいな理系の方は次のホームページをオススメします;

EMANの量子力学

また、その数学的モデルと言うのが、良く知られたイジング模型になります。



量子アニーリングで問題を解く手順は



組み合わせ最適化問題(0または1のビットで表現、そしてその相互作用決めた上で評価関数を最小化する問題)

を、

イジング模型(電子スピンとその相互作用)

で表現し、

横磁場を掛けてどの量子ビットも重なり合った状態からはじめ、徐々に磁場を弱め(重ね合わせを少なくなるようにしていき)安定した所させ

そこが解となるように、(量子アニーリングマシンの中で)物理実験をする事で解くわけです。


古くからあった熱力学的方法のSimulated Annealingとの決定的な違いは、量子トンネル効果により局所解から抜け出すことが容易な点です:

f:id:mathetake:20161225162845j:plain
(Quantum annealing - Wikipediaより。)




多くの人が気になる機械学習への応用についてですが、本書では次の3つのケースについて言及(p87~)されています。

(1)クラスタリングへの応用
(2)教師ありの回帰への応用
(3)ボルツマンマシンの学習への応用


(2)については教師データがあるのでそれを導くような相互作用を求めるような問題に帰着される。
(3)については次のような論文があります⇒[1510.06356] Application of Quantum Annealing to Training of Deep Neural Networks

第4章. 量子コンピュータが作る未来

量子コンピュータはD-WAVEやIBMGoogleなどが開発を進めるニッチな存在ではなく

米国政府によるプロジェクトが発足し、そこでの研究成果は全てオープンになり物凄いインパクトを持つことが予測されている。

AIへの応用と言う点については、GoogleNASAが共同で「量子人工知能研究所」を設立している。

次の動画はその研究所のPV(?)のようなものですが、おもしろいです。

www.youtube.com




残りは量子力学についての話(5章)と、日本が世界をリードする日は来るのかと言う話(6章)が残っていますが、ただ引用するだけで終わってしまいそうなのでこのあたりで筆をおいておきます。


非常に平易な言葉でかかれていますし、人工知能機械学習についてもゼロから分かりやすく説明している非常に素晴らしい本だと思いました。考案者が日本人であるおかげで母国語でこのような本が読める事を非常に幸せに感じます。”量子コンピュータ”と言う言葉に少しでもビビッと来る方全てにオススメします。

*1:巡回セールスマン問題などがよく例として挙げられる.

*2:重要な内容や本質的な箇所を引用するのは著作権法違反みたいですので…。